亡くなった方が借金をしていた場合、そのまま相続を受け入れると債権者への弁済責任もまるまる引き継ぐことになります。そこで「遺産の中には借金も含まれているかもしれない」と心配する方は、借金の存在をまずは調査すること、そして必要なら相続放棄の手続を進めましょう。
そのために知っておきたいことを当記事で解説します。
遺産調査の方法
借金の存在を確認するには、まず亡くなった方の自宅をよく調べ、借用書・契約書などの借金に関わる書類を探してみましょう。そのほか、銀行口座の利用履歴や不動産登記の情報なども要チェックです。
通帳などから毎月一定額の返済をしている様子が確認できればそこから借金の存在を疑うこともできますし、不動産に抵当権などの担保権が設定されていることから借金の存在を疑うこともできます。
加えて各所信用情報機関への開示請求も行いましょう。友人・知人などではなく貸金業者などからの借入であれば、以下の機関へ請求することで借入情報が確認できます。
- CIC:クレジットカード会社との取引が確認できる
- JICC:消費者金融との取引が確認できる
- KSC:銀行との取引が確認できる
相続放棄をする前のチェックポイント
一度相続放棄の手続を進めてしまうとやり直しもできなくなります。大きな決断となりますので慎重に検討を行うことが大事で、事前に以下のポイントは特に要チェックです。
放棄する範囲
もし「借金を放棄しよう」などと考えているのであれば注意してください。
特定の資産や負債だけに絞って相続放棄をすることはできません。放棄する範囲に制限はなく、また制限をかけることもできません。相続人になる権利自体を捨てることとなり、はじめから相続人ではない者としての扱いを受けます。
相続放棄の目的
今一度、なぜ相続放棄をしたいのか、目的を考えてみてください。
もし「相続人のうちの1人に遺産を集中させたい」という目的があるのなら、ご自身以外の親族とも協力して相続放棄を進めなくてはなりません。現状、被相続人の配偶者と子どもが相続人になっているとしましょう。配偶者に遺産を集中するため子どもが相続放棄をしたことで、第2順位の相続人である直系尊属(父母、祖父母など)が相続人になるケースもあります。そのケースでは直系尊属も、さらに第3順位の兄弟姉妹も相続放棄をしないといけません。
放棄の目的が「借金が大きいから」という場合でも同様の注意が必要です。相続放棄をしたことで別の親族が借金を相続する立場になるかもしれませんので、あらかじめ情報共有しておくことが大事です。
申述の期限
相続放棄の申述ができる期限が定められています。「自分自身が相続人になることを認識した日から3ヶ月以内」に手続を済ませないと、相続放棄は原則としてできなくなります。
ただし遺産の調査がなかなか終わらず間に合わないというときは、期間伸長を求める申し立てを行いましょう。「正当な理由」が認められるときは期間を延長してもらえます。
どのような事情があれば「正当な理由」として認めてもらえるのか、不安のある方は弁護士にご相談ください。
未成年者の有無
未成年者が相続人となる場合、相続手続に関して親権者が代わりに進めていくことになりますが、親権者がその立場を悪用できないよう、遺産分割協議や相続放棄に関しては「特別代理人」の選任が求められています。
相続放棄とは別に家庭裁判所での手続が必要となります。未成年者がいるときは注意してください。
遺産に手をつけてはいけない
相続放棄をしようとするなら、遺産の取り扱いには十分注意しないといけません。
もし預貯金を引き出したり物品を売却したり、財産の一部を隠したりしてしまうと、「相続することを承認した」とみなされて相続放棄はできなくなってしまいます。
相続放棄の手続
相続放棄は家庭裁判所で行います。書類の作成・取得、費用の準備を済ませて、家庭裁判所に提出しましょう。
なお、必須の費用は収入印紙代の800円と郵便切手代、戸籍謄本等の取得費用です。相続放棄に関するサポート、その他相続手続やトラブルに関するフォローも兼ねて弁護士に依頼をするときは別途弁護士費用も必要となります。
家庭裁判所に申述書と戸籍謄本を提出
準備すべき書類は大きく次の3種です。
- ① 相続放棄の申述書
- ② 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- ③ 申述人の戸籍謄本
- 代襲相続をする方は、本来の相続人について死亡が記載された戸籍謄本等も必要
- 第2順位・第3順位の方は、先順位の相続人についての戸籍謄本等も必要
代襲相続が発生するケース、第2順位・第3順位の方が相続するケースでは集めるべき戸籍情報が増えますので、書類の不足がないように注意してください。
相続放棄照会書への回答
相続放棄の申述を行い、不備がなければ、その後「相続放棄照会書」が家庭裁判所から送られてきます。
相続放棄の理由や相続人になることを知った日、相続開始後の相続財産の処分状況などに関わる質問が記されていますので、適切に回答を行い、返送します。
回答内容にも問題がなければ無事相続放棄の申述が受理され、「相続放棄申述受理通知書」が送られてきます。債権者の存在が確認できているときは、「相続放棄申述受理証明書」の発行請求もしておき、証明書とともに相続放棄をしたことを伝えておきましょう。